アファーマティブ・アクションについて
1.はじめに
米ハーバード大などの入学選考で黒人や中南米系を優遇する積極的差別是正措置 (アファーマティブ・アクション)の是非が争われた訴訟で、米連邦最高裁は6月29
日、措置が法の下の平等を定めた憲法に違反しているとの判断を示しました。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/260124
この米連邦最高裁の判断は、今後の全米を含めた世界の教育機関の入試に多大な影
響を与える重要な判断です。
そこで、今回は、アファーマティブ・アクションについてご説明します。
2.アファーマティブ・アクションとは・・
アファーマティブ・アクションの名称は、ケネディ大統領時代に施行されたマイノ
リティ差別是正政策がその始まりです。
欧州や国連、日本では「ポジティブ・アクシヨン」、カナダでは 「employment
equity(雇用衡平)」と呼ばれ、国や地域によってその名称は異なります。
アファーマティブ・アクションの趣旨は、
長年形成された「仕事における男女の役割分担意識」などの慣習や固定観念に起因
する差別は、根深いものがあり、単に法律を制定して、周知するだけでは、すぐに
是正することは難しいのが現実です。
それゆえ、そのような現実問題を直視したうえで、
民族的・宗教的マイノリティや女性、障害者、高齢者等のマイノリティに対して、
形式的な「法的平等」(形式的平等)だけでなく、実質的な機会(優遇制度)を与え
る「実質的な平等」(実質的平等)を実現するための施策です。
3 アファーマティブ・アクションの目的
アファーマティブ・アクションの目的は機会の均等を実現することにあります。
過去の慣習・制度によって生じた男女の差をなくし、マイノリティとマジョリティを
同じスタートラインに立たせることが目的です。
したがって、アファーマティブ・アクションを実現するためには、マイノリティに
一定の割合や人数の配置を厳格に強制する「クォータ」制(割り当て制)よりも、機
会の均等を実現し、結果としての数値を目標として掲げる「ゴール&タイムテーブ
ル」の採用を考えるべきです。
4 アファーマティブ・アクションの適用分野
アファーマティブ・アクションが適用される分野としては、会社への就職・雇用
(労働)の他、大学や教育機関への入試(教育)、政策決定や行政判断のための委員
会・審議会等の委員に関する男女割合(政治・行政)等多岐に亘ります。
1)教育の分野
教育の分野では、米国で政府から助成金を受けている私立大学や州立大学が、機
会の均等付与のために、入試や職員の採用枠にマイノリティの優先枠を設けている
例があります。
2)政治・行政の分野
政治・行政の分野では、ベルギーで国の諮問機関の委員を決める際に男女1名ず
つの推薦を義務づけていることや、ノルウエーでは男女平等法により審議会メンバ
ーなど公的方針決定機関において一方の性が全体の40%を下回ってはならないとの
規定があります。
5.アファーマティブ・アクションの根拠
アファーマティブ・アクションの法的根拠としては、
日本国憲法(14条1項)の平等規定及び憲法14条1項の平等の規定は、個々の
ケースに基づき「実質的な平等」を求めていることにあります。
米国では行政規則に基づくエグゼクティブ・オーダー(大統領命令)を行うことが
できることが特徴的です。
エグゼクティブ・オーダーでは、連邦政府契約として1万ドル以上の公共事業契約
を政府との間に締結した企業は、雇用差別の是正策を計画して書面化し実行に移さな
ければならないといった命令を下すことができます。
6. 企業におけるアファーマティブ・アクションの実施
計画の策定から実行までの4段階が理想です。
(1) 雇用差別の禁止、実施表明
就業規則等により、女性や人種的マイノリティに対する雇用差別の禁止を全従
業員に対して表明し、アファーマティブ・アクションに対応する具体的な策定
し、これを実行する責任者を選任すること。
(2) 従業員の活用分析
米国では、全従業員に占める、人種別・男女別の構成比等を算出し、統計値を
明示した資料を作成して従業員の活用状況を分析しています。
多様な人種が存在するアメリカの特殊な事情を踏まえており、日本とは社会的
背景が異なるものの、参考すべき方法です。
(3) 計画の作成、目標の設定
会社の役員や労働組合、マイノリティの代表と協議の上、具体的な計画(ゴー
ル&タイムテーブル)を策定する。
(4) 計画の実行、点検・評価、見直し
計画を実行し、実施状況が点検・評価され、進捗状況を把握しながら、計画の
見直しをはかり、定期的に協議して、是正・改善を図る。
7 最近の情勢
米国では、アファーマティブ・アクション制度が男性や白人に対する逆差別である
との意見があることも事実です。
それゆえ、米連邦裁判所の多数派意見は「多くの大学は長期間にわたり、身に付け
た能力や学力ではなく、肌の色を基準にするという誤った結論を下してきた。憲法は
そのような選択を容認しない。と厳しい判断を下したともいえます。
アファーマティブ・アクションはもともと民主党の政策であるため、米連邦裁判所
の多数派が共和党から指名されている情勢下では、その修正を余儀なくされたともいえます。
8.おわりに
日本では、アファーマティブ・アクション導入の議論はあまり進んでいません。
身障者雇用促進法、男女雇用均等法などで、アファーマティブ・アクションの表れ
を見ることができますが、特に、政治・行政の部門は世界から遅れをとっています。
行政が積極的にアファーマティブ・アクションを推進する必要があります。
例えば、行政契約は、アファーマティブ・アクションを積極的に採用する企業を優
遇する、各部署の性差の割合を各40%以上にする、障害者を積極的に採用するなど
行政が積極的にアファーマティブ・アクションを推進することが、SDGSの「誰も置
き去りにしないために」を実現する方法であると思います。