痴漢事件の慰謝料について

1.はじめに

 前回、痴漢に関してお伝えしましたが、痴漢行為の被害にあったので被疑者に対して慰謝料を請求したいと考える被害者も多くいます。

今回は痴漢事件の慰謝料についてご説明します。

 

2.痴漢行為に対する慰謝料請求

 痴漢行為の被害者のご相談のなかで、痴漢行為の被害にあった場合、精神的苦痛を受け、男性に対して恐怖感が生じたり、電車に乗れないといった被害を訴える方がいらっしゃいます。

 加害者に慰謝料を請求するためには、刑事手続での「示談交渉」と民事手続による「慰謝料請求」の2つ方法があります。

 通常は、刑事手続の「示談交渉」として、加害者である被疑者の弁護士から謝罪と損害賠償のために、被害者側に対して示談交渉の申し入れがあります。

 示談交渉の中で、示談金として慰謝料の支払いを受けることができます。

 示談交渉の申し入れがなかった場合や示談の内容が到底納得できない場合には、民事手続で慰謝料を請求することが可能です。

 もっとも、民事手続で慰謝料を請求する場合、改めて痴漢行為を思い出したり、証拠を集めたりする必要があり、途中で断念する方も多いのも事実です。

 弁護士として、可能であれば、示談交渉の中で慰謝料として示談金を受け取ることがベストな解決であるといえます。

 ただ、被害者の中には感情的な問題もあり、なかなか割り切れない方も多くいらっしゃいます。

 

3.慰謝料の傾向

 痴漢事件といっても、行為様態によって、都道府県の迷惑防止条例違反となるものと刑法の不同意わいせつ罪になるものがあります。

 身体を触っただけであれば迷惑防止条例違反となりますが、抱きつくなどして被害者が抵抗することを難しくしてわいせつ行為をしたときは刑法上の不同意わいせつ罪となります。

 迷惑防止条例違反の場合の慰謝料相場は、概ね10万円から50万円ほどが多い傾向にあります。

 他方、強制わいせつ罪の場合は行為態様が悪質ですから、その分、被害者の受ける精神的苦痛も大きくなりますので、迷惑防止条例違反よりも慰謝料は大きくなります。
 不同意わいせつ罪の場合の慰謝料相場は概ね50万円から100万円ほどで示談が成立することが多いです。

 どれくらいの精神的苦痛を受けたかは、主観的なものですから被害者によって当然異なります。主観的な精神的苦痛をお金で評価することは不可能です。

 それでも、お金という形でしか示談せざるを得ないことも事実なんです・・・

 

4.痴漢行為の顛末

 痴漢行為(迷惑防止条例違反)で警察に検挙されると、最終的には検察官が終局処分を行います。

 当初から痴漢行為を認めて、被害者に謝罪し、示談金も支払い、被害者に処罰感情が ない場合には、不起訴処分

 当初から痴漢行為を行い、示談をするも、被害者に処罰感情が残る場合には、略式処分として、罰金刑を受けることになります。

 なお、被疑者が痴漢行為を争う、否認している場合には、起訴ないし不起訴処分になります。

 罰金の上限金額は条例によって異なりますが、実際に加害者に課される罰金の金額は、初犯であれば20万円や30万円になることがほとんどですが、初犯でない場合は50万円になることもあります。

 罰金とは、被疑者(被告人)が国にお金を納めるものですから、被害者には支払われません。

 また、罰金は刑事罰であり、慰謝料は被害者への損害賠償金ですから両者の間には関連性はありません。

 もっとも、同じ支出であっても、罰金を収めるなら被害者側に損害賠償をしたいと考える加害者も多いため、示談金として支払う慰謝料の金額を考えるにあたり、罰金の金額が参考にされることはあります。

 

5.終わりに

 痴漢行為の初犯であれば、示談金は10~30万円ほどが相場になります。

 民事訴訟として慰謝料請求を行うこともできますが、弁護士費用や時間・労力を考えると、あまり得策とはいえないでしょう。

 可能であれば、示談交渉の中で、弁護人に対して、処罰感情が高く、示談金を高くしないと納得できない旨伝えることも方法です。

 ただし、相場との兼ね合いもありますので、あまりにも高すぎる金額を提示することは得策ではありません。

 被害者の方には、論理的には理解できるが、感情的にその値段では許せないと聞かれることがあります。

 被害者のお気持ちは理解できますし、示談金として、少しでも高い金額をお渡ししたいですが、被疑者の資力や行為様態、相場を考慮して示談金は設定されますので、示談金の交渉は、弁護士としてはいつも悩ましい限りです。