農作物のブランドとブランド保護について

1.はじめに

フランスのAOCEUの地理的表示の考え方から農作物のブランドを守る意識が広がっています。

そこで、ブランドとは、何か?日本ではどのように農作物のブランドを守っているのかお伝えしたいと思います。

2.ブランドとは・・

ブランドとは、ある売り手の商品またはサービスを識別し、他の売り手との差別化を意図した名称や、言葉、デザイン等をいいます(アメリマーケティング協会の定義)。

古ロルド語(北欧諸国後の祖先と言われる言語です。)の「焼き印をつける」(「Burned」)が語源で、この焼き印は、放牧している家畜が自分の所有者であるか識別するために付けられ、識別情報つまり他者との区別するための情報という意味でした。

現在では、ブランドがそのまま会社を示すこともあり(AmazonGoogle、McDonaldなど)、ブランド=商標となっているケースもあります。

 ブランドにおいては、他者との識別と差別化が重要です。

3.ブランドを守る対策

 ① 商標

ブランドを守る方法としては、ブランドを商標として登録することです。

先ほどのブランド=会社を示す場合に最適です。

商標法では、商標を文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結 合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)で、

  Ⅰ 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

  Ⅱ 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)  

と定義しています(商標法2条第1項)。

 ② 不正競争防止法について

 あるブランドを模した商品が出回ってしまった場合には、不正競争防止法に基づい て、差止請求、発行元に対する損害賠償が考えられます。

 ただ、現状として、海外からの類似品や偽物ブランドに対して、個々の企業が単独で全ての対策を取ることは難しく、一度類似品や偽物が出回ってしまった場合、有効な対策が取れないのが現状です。

 4.日本の農産物の例

 日本の農作物は、海外(特に東南アジア)で人気になっており、特に、いちごの「あまおう」、りんごの「ふじ」は大人気となっており、りんごの「ふじ」は、ベトナムの高級輸入販売を扱っているお店では、1個1000円で販売されているとのこと。

 東南アジア諸国では、フルーツの価値を「甘さ」で判断しており、現地のいちごやりんごの甘さとは全く異なるため、高付加価値のある日本のフルーツは、高めの設定でも贈答品としての人気があるようです。

 ① 地域ブランド

 日本の農産物において、スーパーマーケットの存在が消費者の行動を変え、流通を変え、そして日本の農産物を変えることになりました。

スーパーマーケットでの販売においては、農産物を画一化、大量生産した安定供給が重視され、品質が規格化されたものが増えてきたのです。

 規格化された商品は、安定供給、安さがじゅうしされ 、旧来の農産物に大きな影響を与えました。

 そのような状況のなかで、差別化、高品質、高級志向に向けた生産者が先進的な高品質な農産物を生産する取り組みが行われるようになりました。

 各地で他の地域や他の生産物とは差別化して消費者に商品を訴求するため「地域ブランド」として取り組む動きが広がり、平成18年4月に「地域団体商標制度」が始まりました。

 いわゆる「地域+商品名」の制度です。

 大間マグロ、松坂牛、長崎カステラなどといったものです。

 現在では、総出願数769件(農作物・食品は523件)となっており、他の商品との差別化に役立っています。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/t_dantai_syouhyo.html

 ② 地理的表示(GI)保護制度

地理的表示保護制度とは、その地域ならではの自然、人文、社会的要因で育まれた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度です。

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/

対象となった農作物には、農林水産省のお墨付きである地理的マーク(GIマーク)が付されます。

 これは、EUの地理的表示の保護の仕組みと似ています。

 ある特定の場所を意味し、食品等の原料等がそこで生産され、その特徴や特長が当該場所の地理的環境に要因があり、その生産が地理的区域により行われている場合(PDO、PGI) にはEU内では、その名称を排他的に使用できる制度です。

例えば、イタリアのパルミジャーノ・レッジャーノパルマプロシュート、などが挙げられます。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001948/EU_GI_Report2015.pdf

 ③ 地域団体商標制度と地理的表示(GI)保護制度との違い

  ⑴ 管轄・対象の範囲

    地域団体商標制度は、特許庁が審査し、登録する商標で、あらゆる商品・サー   

   ビスが対象です。

    一方、地理的表示(GI)保護制度は、農林水産省が管轄で、農林水産物と飲   

   食料品(酒類を除く)に限定されます。

  ⑵ 類似品などの問題が発生した場合

    地域団体商標制度は、登録した団体が訴訟提起等を行う必要がありますが、地   

   理的表示(GI)保護制度は、農林水産省が主体となって取り締まりを行うこと

   ができます。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/document/faq/t_dantai_syouhyou.pdf

https://ipaj.org/bulletin/pdfs/JIPAJ15-1PDF/15-1_p11-17.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafit/26/0/26_161/_pdf

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030851443.pdf

 ④ 登録商標

   日本もEUの制度を参考にして認知力の向上とともに模倣品対策にブランド保護を  

  図っています。

  いちごの「あまおう」はいちごの種類ですが、福岡・博多で生産されたあまおう  

 は、「博多あまおう」というブランド名で登録商標がなされて、販売されています。

  「博多あまおう」は、「あまおう」から差別化」を図った特別ないちごなのです。

    https://zennoh-fukuren.jp/hakata-amaou/

 ⑤ 種苗法による品種登録

あまおうは、種苗法に基づき品種登録がなされています。(登録品種名称は、「福岡S6号」

  http://www.tokugikon.jp/gikonshi/256/256tokusyu06.pdf

種苗法により、海外に持ち出すことや権利者に無断で販売することは、罰則が科されます。

 なお、種苗法に基づく育成権利は、25年で失効します。

 登録から25年過ぎれば、誰でも生産ができます。

 ⑥ 植物品種等海外流出防止総合対策事業

 海外の模倣品対策として、国は、海外での出願登録の費用援助、模倣品が生じた際の訴訟対応費用の援助を行っていますが、個人での対応では、海外での訴訟対応は難しいのが現状です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2019/sangyou/dai2/siryou3-3.pdf

5.結論

 日本でも模倣品対策をしていますが、実際に模倣品が出てしまうと、対応が後手に回ってしまうのが現状です。

 現状の一番の対策は、「海外に種苗を持ち出さない」ことに尽きます。

 海外への検疫の強化や船舶や貨物の監視強化など海外に持ち出さないことにもっと、厳しい対応を求めてもよいと思います。