消費者団体訴訟制度について
1.紛争管理論について
環境問題や消費者問題など多数の被害者が被害を受けている場合に、個々の被害者
が裁判を提起することは、非常に大変なことです。
先に、他の方が同様の訴訟をしているのであれば、裁判を一本化して専門の団体を
紛争管理権者として訴訟を委ねたほうが、訴訟経済的にも被害者本人のためにもなり
ます。
この考え方は伊藤眞教授が提唱された「紛争管理論」といいます。
判例(最判昭和60年12月20日 豊前火力発電所建設差止訴訟)においては、
原告7名が地域住民の代表として操業停止等を訴えましたが、紛争管理論は、法律の
規定ないし当事者の授権なくして第三者が訴訟追行する根拠に乏しく、採用できない
とされてしまいました。
この紛争管理論の理念である「多数の被害者が想定できる公害事件や消費者問題
等において、第三者に訴訟を委ね、被害者本人の訴訟上の利益を図る」ことが消費者
団体訴訟制度につながっているのです。
今回は、消費者団体訴訟制度についてご説明します。
2.判例の問題点
上記判例が指摘した問題点は2つあります。
「法律の規定」と「授権の問題」です。
⑴ 法律の規定
消費者が団体に訴訟を委ねて権利保護を得るためには、新たな法律の規定が必要
になりました。
そこで、消費者契約法12条以下にて規定が設けられ、消費者団体訴訟制度の立
法の問題は解消されました。
⑵ 授権の問題
「授権の問題」は、被害者救済の観点からみれば、被害者としての適格性が認め
られるのであれば、比較的容易な手続きで行われるべきです。
そのため、団体が呼びかけ、該当する被害者がこれに申請する形が適切です。
⑶ 団体の適格性
なお、団体の適格性については、特定の問題(例えば、環境問題であれば、特定
の地域の環境保全を行う者)や具体性(特定の商品の被害を受けた被害者を原告と
して、企業に差し止めを求める)などをクリアすることで解消できます。
3.消費者団体訴訟制度
消費者被害の問題は、被害者が拡散的に同時に多発するも、被害者は事業者との間
に情報の質及び量並びに交渉力の格差等があり、消費者は被害回復のための行動を取
りにくく、誰にも相談せず「泣き寝入り」となることも少なくありません。
そして、訴訟制度の利用については、そもそも、被害に遭っているとの認識を持っ
ておらず、返還請求等ができるとは知らない場合や、少額な請求となる場合も多く、
訴訟には相応の費用・労力を要すること等から、個々の消費者が訴訟制度を利用して
被害回復を図ることは、現実的ではないことは前述しました。
そこで、国の認定を受けた特定の消費者団体が消費者被害の拡大を防止し、被害回
復を図るために、消費者の代表となって差止請求、被害回復制度を行う制度を
「消費者団体訴訟制度」といいます。
4.消費者団体の種類
消費者団体の種類としては、「適格消費者団体」と「特定適格消費者団体」があり
ます。
⑴ 適格消費者団体
適格消費者団体とは、「不当な勧誘」、「不当な契約条項」、「不当な表示」な
どを事業者にやめるように求める差止請求を行うのに必要な適格性を有するとし
て、内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体です。
また、特定適格消費者団体とは、多数の消費者に共通して生じた財産的被害につ
いて、被害回復裁判手続を行うのに必要な適格性を有するとして、内閣総理大臣の
認定を受けた消費者団体です。
5.差止請求について
⑴ 差し止め請求の流れ
適格消費者団体が行う差し止め請求の手続の流れは以下のとおりです。
① 消費者からの情報提供などにより被害情報を収集・分析・調査
② 事業者に対し、業務改善を申し入れ(裁判外の交渉)
③ 団体と事業者で協議
④(交渉成立の場合)事業者による業務改善
⑤(交渉不成立の場合)事業者に対し、提訴前の書面による事前請求をした上、裁
判所へ訴え提起
⑥ 判決、または裁判上の和解
→決して、裁判だけが手段ではなく、団体と協議の上で解決手段を見出すことに特徴があります。
⑵ 差し止め請求の対象
差止請求の対象となるのは、
「消費者契約法」「景品表示法」「特定商取引法」「食品表示法」に違反する不当
な行為です。
→消費者保護、消費者の権利保護を実現するための制度です。
⑶ 具体例
結婚式場の披露宴に関する規約で、利用者が披露宴の1年以上前に契約を取り消
した場合でも、事業者は、申込金10万円全額を返還しないとする条項が存在した。
→ 披露宴の1年以上前には、事業者側において、具体的な準備が行われないとして、
適格消費者団体が協議により、当該条項の削除を求めた結果、事業者は当該条項を
削除した。
その他差し止めが可能になった例として、
6. 被害回復について
⑴ 被害回復の手続きの流れ
① 第1段階
適格消費者団体の中から新たに認定を受ける「特定適格消費者団体」が、事業者
側の責任確定のために提訴
② 第2段階(勝訴判決や和解によって、事業者側の責任が確定した場合)
特定適格消費者団体が裁判所に個別の消費者の債権を確定するための手続に入
ることの申立て
※令和4年改正法の施行後は、第1段階での和解が柔軟化されたことに伴い、第
2段階の手続に進むことなく和解内容に則って被害回復が図られることも可能
となります(改正法の施行日は、令和5年(2023年)10月1日)。
③ 特定適格消費者団体から対象となる消費者へ情報提供
④消費者が特定適格消費者団体に依頼(授権)
⑤特定適格消費者団体は依頼(授権)のある消費者の債権を集約して裁判所に届出
⑥裁判をせずに、事業者と特定適格消費者団体(消費者)間の協議による決着も可
能だが、決着が付かない場合は裁判所が簡易な手続のもとで決定を行う(簡易確
定決定)
⑴ 簡易確定決定に異議がある場合は、通常の訴訟手続へ移行
⑵ 協議内容や簡易確定決定に従い、届出を行った消費者に対して事業者が金銭
を支払う(支払わない場合には強制執行も可)
参照:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201401/3.html
⑵ 被害回復の対象
事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、
消費者契約に関する「契約上の債務の履行の請求」
「不当利得に係る請求」
「契約上の債務の不履行による損害賠償の請求」
「不法行為に基づく損害賠償の請求」
が対象となります。
このうち、損害賠償請求において、いわゆる拡大損害、人身損害、逸失利益、慰謝
料は対象となりません。ただし、令和4年改正法の施行後は、一定の慰謝料が対象に
なります。
また、対象となる被告は基本的には「事業者」ですが、令和4年改正法の施行後は
悪質商法に関与した個人(所定の要件に該当する事業監督者・被用者)が対象となり
ます(改正法の施行日は、令和5年(2023年)10月1日)。
6 おわりに
今後は、悪徳商法に関与した個人にも適用されるため、利用がしやすくなると思わ
れます。
消費者の被害が拡大しないよう、積極的に消費者団体が関与することが大切です。
消費者も、被害にあったら、すぐに警察や国民生活センターに報告すること、消費
者庁や国民生活センターのHPを確認することが、被害拡大や被害回復のために必要で
あると思われます。