鯨類のストランディングについて

1.はじめに

  今年に入って、1月に大阪湾に鯨が迷い込み、4月には千葉県の一宮海岸で鯨が打

 ち上げられるなど鯨が湾内や海岸に打ち上げられる事件が多発しています。

  鯨が湾内に迷い込んだり、打ち上げられたりする現象は打ち上げられるケースは、 

 年間300件あるといいます。

  鯨が湾内に迷い込んだり、打ち上げられたりする現象を「ストランディング」とい

 います。

 今回は、鯨類の「ストランディング」についてお伝えします。

 

2.外国の対応

  日本に比べて、米英や豪州は古くからストランディングに関する関心が高まり、そ

 の対応も迅速かつ充実しています。

  海外では、いわゆる「海産哺乳類保護法」が制定されており、座礁や漂着した鯨類

 は行政機関が管理する義務を負っている。

  そのため、海岸線に沿って地域ごとに「ストランディングネットワーク」が発達

 し、鯨類の座礁・漂着が発見されると、官民が一体となって地域のネットワークとし

 て組織的に救助活動を展開します。

  欧米では、行政よりも民間のネットワークが充実していることが特徴です。

 

3.日本の対応

 一方、日本では、鯨類を食用として利用する水産資源と考えており、「漁業法」や「水産資源保護法」で無許可の鯨類捕獲を禁じています。

 ストランディングに関しては明確な法規定がなく、欧米のような民間のストランディングネットワークは非常に乏しいものになっています。

4.日本の独自の対応

 日本独自の対応としては、水産庁捕鯨班が「鯨類座礁対処マニュアル」を作製しています。

 https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/manyuaru2012kaisei.pdf

 

 このマニュアルには、鯨類が座礁発生した場合には、

 ①「市町村」が座礁鯨現地対策本部を設置し、市町村長等が座礁対処責任者となる

 ➁ 対策本部は関係する「水産部局」、「環境部局」、「土木関係部局」、「消防 

  署」等を持って構成し、必要に応じて「地元警察署」、「水産試験場その他必要と

  する機関および個人」をメンバーとすること

   このマニュアルでは、鯨類の座礁の救助者として、「行政組織」が指定されてお

  り、鯨の救助を行政が民間に委ねている欧米と大きく異なります。

   ただ、行政機関が救助を行うことは、そこに多額の税金が発生します。 

  淀ちゃんで有名になった今年1月の鯨の迷いこみに関する費用は、8000万円近

  く生じましたが、全て税金で処理されました。

 

5.大型鯨類の対応について

  大型鯨が座礁した場合、重機や船舶を動員して救助を行っても、すでに体力が弱っ

 ていたり、衰弱している可能性があるため、海洋に戻る可能性は、かなり少ないのが

 現状です。

  また、動物福祉の観点からも、無駄な救助活動は単に動物の苦しみを長引かすだ

 けの結果しか生みません。

  鯨類の座礁対処マニュアルでは、ストランディング対策として「安楽死」の選択

 と、死体の有効利用による処理費用軽減(利用者負担)に関する記述があります。

 

6.鯨類の座礁の原因

 鯨が迷い込んだり、海岸に打ち上げられてしまう理由は、どのような原因なのでしょう。

 実は、未だに詳しいことは解明されていません。

 現状では、

  • 冷水塊というとても冷たい海水の海域に鯨が迷い込み、低体温症となり、動けなくなった。
  • 病気や認知症に近い個体に寄り添った結果、迷い込んでしまうケース(病気リーダー仮設)

  などが考えられていますが、有効な対策が取れていないのが現状です。

 

7.ストランディング対策の意義

  日本でストランディング対策を行う理由は、鯨の病気や寄生虫の調査だけでなく、

 海洋汚染や環境変化のサンプルとしての意味合いが大きい。

  鯨類の血液や排出物から、多くの化学物質やマイクロプラスティックが発見される 

 など、鯨の体は、海の環境汚染を調査する貴重な資料となります。

  鯨類は、海の食物連鎖の頂点に至る存在です。

  したがって、鯨類の調査研究をすることで、海洋調査だけでなく、人体の影響、マ

 イクロプラスティックが与える海洋資源への影響も調査できるのです。

 

8.最後に

 

  ストランディングは、海洋資源への海の影響、各化学物質の影響、マイクロプラスティックが与える影響等を調査できる貴重な資源です。

  貴重な資源である鯨類のストランディング調査を推進するためには、行政が幅広く

 大学や博物館、研究所等の活動を積極的に支援する体制を作ることが必要であると考えられます。

 鯨類のストランディングを通じて、水産庁文部科学省だけでなく、大学、博物館、民間の調査研究所を含めた大きな枠組みで鯨類を調査研究し、議論ができる環境を形成することが求められます。