処分権主義について

1.はじめに

   前回、民事訴訟法において重要な概念である弁論主義をお伝えしました。

  民事訴訟法には、もう1つ重要な概念があります。

  それが、処分権主義です。

  今回は、処分権主義についてお伝えします。

 

2.処分権主義とは・・・

  処分権主義とは、民事訴訟の当事者に、訴訟の開始、審判対象の特定やその範囲の 

 限定、判決によらずに終了させる権能を認める建前のことです。

  処分権主義は、私的な利益について、自らが訴えるかどうか、何を訴えるか、訴訟 

 という形で終わらせるかは、原告の自由な意思により決定できるという意味です。

 

3.訴訟制度と処分権主義の具体的な内容

  処分権主義の具体的内容としては、以下のものがあります。

 ① 訴訟の開始の段階

   民事訴訟は、当事者の訴えをまってはじめて開始されます。

   いつ、訴えるかは、原告の自由です。

   (ただし、実体法上の時効の問題があります。)

 ②審判対象特定提示について

   当事者(原告)は、訴えにおいて、どのような裁判を求めるのか(対象、範囲、

  審判形式など)を明示することを要し、裁判所はこれに拘束されます(民事訴訟

  246条)。

   原告は訴状の当事者欄(民事訴訟法133条2項1号)において誰を当事者とするの

  か決めることができます。

   また、訴状の請求の趣旨及び原因(民事訴訟法133条2項2号)において、いかな

  る権利関係か、給付・確認・形成のいずれの訴えの形式か、複数請求訴訟・共同訴

  訟を提起するか否かを選択することができます。

 

 ③訴訟の終了の段階

   当事者は、その意思によって(終局)判決によらずに訴訟手続を終了させること

  ができます。

   判決に至らずに事件を終了させる方法としては、訴えの取下げ(民事訴訟法261

  条、262条)、訴訟上の和解(民事訴訟法267条)、請求の放棄・請求の認諾(民事

  訴訟法266条)などがあります。

 

4.処分権主義の機能

   処分権主義によって、裁判所、被告にとっても利点があります。

 ① 原告から呈示された訴訟物からにより審理の範囲が確定しますので、裁判所にと

  って審理の集中化を図ることができます。

 ② 被告にとっても、防御の目標を提示する手続保障の役割をもつことになりますの 

  で、原告の提示した訴訟物に対して、防御の範囲が特定できる利点があります。

 

5.処分権主義の例外

  その一方で、処分権主義が排除される場合があります。

  処分権主義が個人の私的自治の貫徹を図ることにありますので、個人の私的自治

 範囲を超える問題つまり問題となる法律関係が個人的利益を超え、公益あるいは一般

 的利益に関するものである場合には、処分権主義は排除(または制限)されます。  

  具体的には、人事訴訟事件(婚姻、養子縁組など)、会社訴訟事件(株主総会決議

 取消訴訟など)において、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解が認められない場合があ

 ります(人事訴訟法19条2項、37条、44条)。土地の境界確定訴訟においても、公的

 な判断を行う必要がある場合には、処分権主義が排除される場面があります。

 

6.処分権主義が問題になるケース

  処分権主義が問題になるケースとして、債務不存在確認の訴えで原告自認の債務を

 下回る認定した場合があります。

  原告が被告に対して、1000万円の貸金返還請求をしました。

  被告は、300万円は弁済したと主張し、これが認められると、原告は被告に70

 0万円を支払えという判決になります。

  では、原告が被告に対して1000万円の貸金返還債務のうち、200万円を超え

 て債務は存在しないという旨の債務不存在確認訴訟をした場合に、裁判所は、「10

 0万円を超えて債務が存在しない」と判決できるでしょうか。

  民事訴訟法では、「当事者の申し立てていない事項について判決をすることができ

 ない(民事訴訟法246条)」と定めています。

  今回の訴訟物は、「200万円を超えて債務が存在しないか」ですから、「200

 万円以下の債務」に関して原告は判断を求めていません。

  そのため、裁判所は、(200万円以下である)「100万円を超えて債務が存在

 しない」との判決することは、246条違反となり、違法となります。

 

7.さいごに

  処分権主義が問題となった判例はたくさんありますが、判例を学ぶ際に必要なこと 

 は、概念や制度の趣旨です。

  処分権主義の趣旨は、私的自治の貫徹であり、裁判所は、原告の自由な意思を尊重

 しつつ、判決という形で裁断する必要があります。

  原告の自由な意思に反して、裁判所の判断により判決をすることは、慎まなければ

 ならないということです。

  処分権主義は、少し難しい概念ですが、是非ともマスターしてみて下さい。