麦みそを「みそ」と表示すると違法?

1.はじめに

     突然ですが、皆さんは、お味噌汁の際に、どんな味噌を使っていますか?

   私は、色々試した結果、子供のころから利用している浅草の万久味噌店さんの「仙  

 台味噌」が一番のお気に入りです。

https://asakusa-navi.jp/shop/10188

 

  岡崎の「八丁味噌」、京都の「白みそ」、鹿児島の「薩摩みそ」など西日本のほ  

 うが、バラエティーに富んだ味噌に出会えます。

(西日本、南に行くにつれ、味噌の味が甘くなるように思えます。)

  四国や九州では、「麦みそ」をメインに使っている地域があります。

  そんな中、去年の5月に愛媛県が、愛媛県宇和島市南予地方)の味噌屋さんに 

 「麦みそ」「味噌」という名称を利用しないように指導していたことがありました。

  どうして、愛媛県は、味噌屋さんに「味噌」の名称を利用しないよう指導したのでしょうか?

 

2.みその定義

  実は、味噌には、定義があります。

  味噌とは、次に掲げるものであって、半固体状のものをいう。
   一 大豆若しくは大豆及び米、麦等の穀類を蒸煮したものに、米、麦等の穀類を 

    蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたもの又は大豆を蒸煮してこうじ菌を

    培養したもの若しくはこれに米、麦等の穀類を蒸煮したものを加えたものに食

    塩を混合し、これを発酵させ、及び熟成させたもの

   二 一に砂糖類(砂糖、糖蜜及び糖類をいう。)、風味原料(かつおぶし、煮干

    魚類、こんぶ等の粉末又は抽出濃縮物、魚醤油、たんぱく加水分解物、酵母

    キスその他これらに類する食品をいう。以下別表第四のみその項において同

    じ。)等を加えたもの

 

   麦みそとは、みそのうち、大豆を蒸煮したものに大麦またははだか麦を蒸煮し

  て麹菌を培養したものと塩を加えて発酵させたもの

 

 このように、味噌は、大豆を蒸し煮したものが入っている食品であることが「ミソ」なんです。

 

3.食品表示法について

  食品を表示する際の具体的なルールとして、食品表示法があります。

  食品表示法4条1項では、食品および食品関連事業者等の区分ごとに、消費者が食 

 品を安全に摂取し、自主的かつ合理的な選択をするために必要な表示基準を内閣府

 で定めるとしております。

  これを受け、「食品表示基準」が定められており、様々な加工食品や食品関連事業

 者またはそれら以外の業者に関する表示方法や表示禁止事項等が規定されています。

  そして、この「食品表示基準別表第三」では食品の区分とその用語、定義が定めら

 れており、「みそ」の区分ではそれぞれのみそについての定義も定められています。

http://www.saqp.jp/Topix/20150530-pdf.pdf

 

つまり、2.で紹介した味噌の定義は、食品表示法4条1項を受けた「食品表示基準別表第三」に書いてあるのです。

 

4.南予伝統の「麦みそ」

  南予地方で作られる「麦みそ」は、麦と塩だけで製造されます。

 例えば、https://www.d-department.com/item/DD_TEXT_REPORT_18909.html

https://agoramarche.com/?pid=122867053

 上記のみその表示にも、

 原材料:はだか麦(国内産)、食塩、酒精

 と書いてありますね。

 つまり、南予地方のみそには、大豆が入っていません。

→味噌とは、大豆を蒸し煮したものが入っている食品と紹介しましたね。

 

 南予地方の麦みそには、大豆が入っていないので、食品表示法の「みそ」ではない。ということで、愛媛県は、「麦みそ」は「みそ」ではないと判断し、指導したのです。

 

5.景品表示法について

  商品の不当表示等から消費者を守るルールとして、景品表示法があります。

  景品表示法4条1項1号では、商品または役務の品質、規格その他の内容につい 

 て、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、一般消費者によ

 る自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる場合に「優良誤認表 

 示」として違法となるとしています。

  「著しく」とは社会的許容度を超えた誇張・誇大をいいます。

 そして、社会的許容度を超える誇張・誇大とは、一般消費者が実際と異なることをあ

 らかじめ知っていたら取引に誘引されなかったであろうと認められる程度とされ、そ

 の基準は一般消費者の表示から受ける印象・認識によると言われています。

 つまり、表示の違法性の基準は、一般消費者の視点を基準に判断されます。

6.麦みそを「みそ」と表記したら、景品表示法違反か?

  「みそ」または「麦みそ」は、食品表示法では、大豆を使用していることが要件と

 なっていましたね。

  しかし、南予地方では、江戸時代(地元の人々の間では江戸時代よりも古く作られ

 ていたようです)から大豆を使用しない製法で麦みそを製造しており、

 それを「麦みそ」と表示して販売していました。

  そして、地元の人は、昔からの「みそ」である「麦みそ」が「みそ」と思っている

 方が多く、一般消費者の視点からみても、誤解を招く恐れは低いと思われます。

 

  したがって、南予地方の「麦みそ」を「みそ」と表記しても、景品表示法違反には

 ならないと思われます。

7.結論

  結論から言いますと、

 

  南予地方の「麦みそ」を「みそ」と表記することは、

  となります。

 

  食品表示法違反であることから、罰則を受けることが通常ですが、景品表示法上適

 法な表記に対して、罰則を適用することが適切かどうか、実は法的な整備ができていません。

  今回の顛末は、結局、みそ業者が名称の継続使用を求める要望書を県に提出したところ、県が再検討し、優良誤認ではないと認め、景品表示法違反ではないと認めることになりました。

 

  私的には、麦みそも「みそ」でいいのではないでしょうか。

  「みそ」の定義にこだわっている方がどのくらいいるかわかりませんが、

   麦みそ100%の味噌汁も味があって美味しいですし・・・

  

  法律という枠組みを厳格に解するのではなく、時には柔軟に、利用者が不便にならないように法律を解釈していくことが必要だと思います。