親の教育・監護権と懲戒権

1.はじめに

  子供を持つ親が、子供に対して「しつけ」と称して、体罰を与え、悲劇的な結末を 

 招く事件が絶えず発生しています。

  行政も、児相(児童相談所)と連携して、不幸は出来事を減らすよう改善していま

 すが、未だに事件が生じてしまいます。

  このような事件を減らすためには、どのように考えればよいのでしょうか。

 

2.民法上の懲戒権

  親は、子供に対して、監護し、教育する義務があります(民法820条)。

  そのため、親は、子に対して、監護し、教育する範囲で懲罰することはできます(民法822条)。

  重要なのは、親の懲戒権は監護し、教育する範囲に限定されている点です。

  あくまで、子を監護し、教育するための(最低限の)範囲での懲戒権の行使ができ

 るということです。

  それは、子供と児童の権利条約のなかで「児童が、その人格の完全なかつ調和のと

 れた発達のため、家庭環境のもとで幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する

 べきである」という文言がある以上、家庭の中では、児童に対して、幸福、愛情及び
 理解のある雰囲気の下で初めて監護し、教育することが前提となっているのです。

 

3.懲戒権を超えた行為は、体罰です。

  親が子に対して。懲戒権を超えた体罰は、「児童虐待」です。

  刑法上の暴行罪・傷害罪の対象となり、親権停止の考慮要素となります。また、都 

 道府県児童養護施設への入所措置の対象となります。

 

4.言葉や身体に対する暴力がなくとも、教育はできます。

  日本では、子が親の話すことに対して、反抗したり、逆らったりしたとき、身体的

 な制裁や厳しい言葉を浴びせないと、わがままに育ってしまう、社会に適応できない 

 と思ってしまう傾向があります。

  しかしながら、そのようなことはありません。

  子がしてはならないことを自ら考えさせ、学ばせることが重要なのです。

  時には、厳しく教育することも必要かもしれません。

  ただ、身体的・精神的な苦痛を与えてまで、親の言うことに従わせる必要はあるの

 でしょうか。

 

5.暴力をふるう親の心理

  https://blog.counselor.or.jp/family/f216

  上記サイトの山梨県立大学人間福祉学部の西澤哲教授によれば、1~3歳の乳幼児を

 持つ母親650人の調査から虐待の心理と関連する7つの因子を明らかにしています。

  ⑴ 体罰肯定感

  ⑵ 自己の欲求の優先傾向

  ⑶ 子育てに対する自身喪失

  ⑷ 子どもからの被害の認知

  (子どもが自分をバカにした目で見たといった、子どもの存在や行動によって母親

   自身が被害を被っている認識)

  ⑸ 子育てに対する疲労・疲弊感

  ⑹ 子育てへの完璧志向性

  ⑺ 子どもに対する嫌悪感・拒否感

  西澤教授によれば「暴力はふるうまいと心に決めていながら虐待してしまう親の方

 がはるかに多い」のが実情であり、「多くの親が、苦しみもがきながら我が子に暴力

 をふるってしまっている」のだそうです。

  みんな、育児に、しつけに、子育てに悩んでいるんです。

  子育ては、大変で、疲れるし、思ったことがうまくいきません。

 「何で、うちの子は言うとおりにしてくれないの?」と思うでしょう。

  でも、それが当然なのです。

 

  子供はすでに立派な人格を持っていて、「自我」を有しています。

  子供ではなく、1人の人格者として接してみませんか?

 

6. 暴力をふるう子の心理

 ⑴ 自分を理解してほしい

   叩く、殴る、「ぶつ」といった身体的な行動に出る子供は、身体的な行動を通じ

  て、何らかのメッセージを発しているのです。

   それは、自分の立場や気持ちを理解してほしい、分かってほしいということ。

   自分の気持ちを言葉で伝えれば、それにこしたことはありません。

   しかし、言語の能力が未発達で、思考力も気持ちも整理することができない子

  が、自分の気持ちを言葉で表現することは、困難です。

   そのため、鬱積した気持ちが身体的な行動として「爆発」してしまうのです。

 ⑵ 親への抗議

   親へのメッセージとして、「自分は悪くない」「不合理だ」「納得いかない」と 

  いう意味も含まれているかもしれません。つまり、親に対する抗議の意味合いで、

  身体的な行動に出てしまうこともあります。

 ⑶ 自立したいという意思表示

   思春期や年頃の年代になれば、自分で行動し、自分で判断したいもの。

  親が小言を言ったり、子の行動を上から強制的に止めさせる(おやつが食べたくて

  買ってきたのに、「買っちゃダメ」と言って、強制的に取り上げる)ことなどが生

  じた場合には、自分の気持ちが鬱積にした形で、身体的な行動に出てしまうことも

  あります。

 ⑷ 強度な暴力やいわゆる家庭内暴力について

   ストレスやイライラする気分、とりわけ自身の無力感を、物を壊す、暴言を吐 

  く、自分より強いと思っていた親を相手に暴力を振るう、といった形で発散するこ

  とで、自分の万能感を満足させたいという心理が働いていることも考えられます。

   強いと思っていた親を殴ったり蹴ったりすることで、自分の強さを感じ、物を壊

  すことで、すっきりするなど、先を考えず、衝動的に行動することも多いです。

 

7.解決案

  人間は、自分で起こした行動で気持ちの良い思いをすると、その行動を繰り返しや

 すくなります。

  逆に、嫌な言葉や行動をされると、その人を嫌いになります。

  力ずくで言うことを従わせる、きつい言葉を浴びせることは止めませんか?

  過去に自身が親にされたこと、やられたことを子供にするのは、止めませんか?

  あなたが行ったことと同じことを子供が孫に、孫が曾孫に行うことになります。

  そのようは負の連鎖は、もうやめましょう。

  あなたが行った暴力を子供は覚えています。

  あなたが行った暴力に耐えきれず、子供は他人に暴力をふるうことで、「いじめ」

  となり、自分や人の心や体を傷つけることになりかねません。

  あなたが、疲れていることはわかります。大変なこともわかります。

  でも、子供は、まだまだ人格形成の途中です。

  1つの出来事で、トラウマになったり、人格が変わってしまうこともあるのです。

  残念ながら、暴力が起こった後では、できることが少ないのです。

 

  それよりは、日ごろから非暴力的な行動(例:説明したら納得した、ごめんねと言  

 えた、手を出さずに貸せた、など)を取れたら積極的にほめ、解決策のレパートリー

 を増やしていくことに力を注ぐ方が重要です。

  その際は、完璧でなくても、理想形でなくても、暴力的な解決でなければ、大きな

 前進ですので、褒めましょう。
  ママやパパに褒めてもらえて、叩いて解決していたときよりも褒られることの嬉し

 さを得られることで、その行動はインプットされていきます。

  「叩かないよう努力する」と一生懸命我慢するよりも、叩かない解決法を考えまし

 ょう。

   効果的に褒めるアプローチに切り替えていきましょう。