高次機能障害のお話
1.高次機能障害とは
高次脳機能障害とは、交通事故等の外傷により、脳組織に器質的損傷(局所性損傷・びまん性損傷)が生じ、
- 記憶・記銘力障害、集中力障害・遂行機能障害・判断力低下等の認知障害
- 感情易変、不機嫌、攻撃性、暴言・暴力・幼稚、羞恥心の低下、多弁(饒舌)、自発性・活動性の低下、病的嫉妬、被害妄想等の人格変化
- 1、2症状に加え、痙性片側麻痺、痙性四肢麻痺、起立・歩行の不安定、構語障害
などの症状が発症する障害をいいます。
ざっくり説明すると、
交通事故の事故後に
① 知的障害
物忘れ、集中力・注意力の低下、計画的・複数の行動ができない
② 性格・人格の変化
「人が変わった」と感じる性格や人格の変化
急に不機嫌になったり、大声をあげる、自己抑制が効かない、過食
人間関係やコミュニケーションが困難になってしまった
③ 身体的・神経的症状
手足にしびれが生じる、歩行することが困難、吃音、言語障害
などの症状になった場合を示します。
2.高次機能障害の診断判断について
高次脳機能障害の障害に関しては、後遺障害等級の観点から、
- 意思疎通能力
- 問題解決能力
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力
に関して、「障害なし」~「全部消失」まで程度に応じ、
第1、2、3、5、7、9等級に該当することになります。
ただし、交通事故による高次脳機能障害と認定されるためには、主に以下の条件が
必要です。
画像上確認できないことが多い脳損傷(軽度外傷性脳損傷・MTBI)で長期に渡り症
状が残存する場合には、その他の画像・検査所見や意識障害等の条件を併せて判断す
ることで、高次脳機能障害と認定される可能性があります。
・ 一定期間の意識障害が生じた
(事故直後6時間以上の意識障害が継続した場合、永続的な高次脳機能障害が残る
ことが多いとされています)
3.高次脳機能障害は、大変見逃されやすいです!
高次脳機能障害は、認知障害及び人格変化をその症例とします。
初診の医師の場合、事故前の患者の認知能力や人格を把握できないため、高次機能障
害の変化に気付かない、他の急性期の合併症状として見落とされる、単なる一過性の
症状と考えられたり、そもそも医師が症例につき理解が不十分であったりするなど、
症状が見逃されることがあります。
事故当初に、高次機能障害の症状が見逃されてしまったことで、早期に撮影すべき
画像を取得していなかった、当初の意識障害の状態が正しく記録されていなかったこ
とで、事故による脳障害の症状であることを証明できず、後遺障害の認定を受けられ
なくなかったケースがありました。
初期の段階で、患者側も医師に対して、高次機能障害であることを正しく伝える必
要があります。
4.高次脳機能障害になったら・・・
① 早期の症状把握と専門医の相談
そのため、事故前の患者の認知能力及び性格を把握していない医師にとって、大
変見逃されやすい症状になります。
また、被害者ご本人が自分では発症に気付いていないことも多々あります。
ご家族など周囲の方が、被害者に事故後認知障害・性格の変化等の症状が生じた
と感じたら、すぐに医師にご相談ください。
また、高次脳機能障害は比較的最近研究が進んだ症例であり、医師間での認知度
もそれほど高くなく、脳神経科・神経科以外の専門外の医師にとってあまり馴染の
ないこともあります。
主治医の理解が不十分と感じたら、専門医を紹介していただくなどして、専門医
の治療を受けてください。
② 頭部への受傷を示す診断結果
事故により頭部を打ち付けた場合、頭部に強い衝撃を受けた場合は、必ず医師に告
げて、診断書等に書いてもらうようにしましょう。
- 早期の画像診断(CT,MRI)
高次脳機能障害では、初期段階でのMRI、CTの画像が必要です。
事故後、直ちにMRI、CTの画像を撮影するようにしましょう。
- 意識障害・記憶障害の程度の記載
事故後に意識障害・記憶障害が生じた場合、脳損傷を示す有力な徴候となります。
事故後、頭部を受傷したことで意識障害や記憶障害が生じた際、その程度、継続時
間等を必ず医師に告げ、診断書等に記載するよう求めて下さい。
また、意識・記憶障害が継続している場合、
「グラスゴーコーマスケール (GCS)」もしくは「ジャパンコーマスケール
(JCS)」により意識レベルを測定し、その数値を診断書に記載するよう求めて下
さい。
- 神経・心理学テストの実施
平成30年5月31日付「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」では、障害程度の把握のための検査として以下の神経心理学的検査が挙げられています(平成30年報告書)
・WAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition)
・WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised)
・三宅式記銘力検査
・TMT(Trail Making Test)
・語の流暢性(FAB:Frontal Assessment Battery)
・BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)
・WCST(Wisconsin Card Sorting Test)
・WISC-Ⅳ(Wechsler Intelligence Scale for Children-Fourth Edition)
・KABCⅡ(Kaufman Assessment Battery for Children,Second Edition
高次機能障害の症状が認められる場合には、これらのテストを受けることをおススメします。
③ 日常生活報告書の作成
認知能力及び性格は人により様々です。
多くの医師は事故前の被害者の認知能力・性格を把握していません。
まずは、事故により、認知能力及び性格が変化したことを示す資料を医師に提供す
ることが、高次機能障害の適切な処置や治療をするうえで重要になります。
また、後遺障害等級認定機関にも、被害者の認知能力・性格の変化を伝え、事故
が原因で高次脳機能障害を発症したことを理解してもらう必要があります。
そのため、ご家族などから、「日常生活報告書」(被害者の事故前後の認知能力
及び性格の変化に関する詳細な報告書)を記入していただくことが必要です。
④ 各種診断書の準備
後遺障害の認定を受けるためには、事故と高次機能障害との因果関係つまり事故が
原因で高次機能障害になったしまったことを証明する必要があります。
事故直後の診断書、MRI・CT画像の診断結果、「日常生活報告書」記載の事
故前後の認知能力及び性格の変化を「後遺障害診断書」に正確かつ詳細に記載する
必要があります。
また、麻痺の程度や神経学的検査の結果をより詳細に記載するため、
「脳損傷による障害の状態に関する意見書」、「GCS」や「JCS」の結果
意識障害の程度・時間を詳細に記載した「頭部外傷後の意識障害についての所見」
等の診断書類・意見書も必要です。
また、自賠責等の等級認定機関に対して、症状の内容をより詳細に伝えることが
重要です。
5.結論
高次機能障害で賠償金を得るためには、事故と高次機能障害の因果関係を証明する
ことが重要です。
特に事故直後の資料や診断書は、因果関係の証明に重要な書類になります。
資料の収集には、専門的な知識が必要です。
また、症状をより詳細に伝えるためには、弁護士に依頼することがベストです。
交通事故が原因で、高次機能障害に遭ってしまった場合には、是非弁護士にご相
談することをおススメします。