アクティビスト・ファンドについて
1.はじめに
最近の株主総会では、「もの言う株主」として株主が活発になり、経営陣に要求を
してくることがあります。
海洋土木大手の東洋建設では、TOB=株式の公開買い付けをめざす大株主の資産
運用会社と会社側が対立していました。
株主総会では、資産運用会社側が9人の取締役候補を提案。
このうち、株主総会で7人が賛成多数で選任され、取締役の数で会社側の提案から
選任された6人を上回る形となりました。
このように資産会社やファンドが様々な要求をするなかで、「アクティビスト・フ
ァンド」について学ぶことが必要と思われます。
2.アクティビスト・ファンドとは・・・
アクティビスト・ファンドとは、ファンドの資産を構成する株式の発行元である会
社に対し、経営陣を通して様々な要求を求めるファンドの総称です。
日本では、村上ファンドが有名です。
このほかにも、ブルドックソース株式会社やアデランス株式会社に対して様々な要
求を求めたスティール・パートナーズ、JT(日本たばこ産業株式会社)に対して株
主提案を行ったザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド等が有名です。
ちなみに、アクティビストとは、「活動的・活発的」という意味ですから、会社に
対して積極的な株主提案を行うという意味です。
アクティビスト・ファンドの提案が企業にとって敵対的かどうかは問いません。
3.アクティビスト・ファンドの目的
アクティビスト・ファンドは、どうしてこのような要求を突き付けてくるのでしょ
うか。
アクティビスト・ファンドと言うと、配当の要求や経営陣の交代など短期的な利益
を追い求め、経営陣と対立する構図をよく聞きます。
その一方で、アクティビスト・ファンドの提案には、長期的な視野を含めた総合的
な企業価値の向上、保有資産の増加を求めることで、企業体質の向上に役立つ目的も
当然含まれています。
アクティビスト・ファンドの目的は、短期・長期的な視野から見た総合的な企業価
値の向上なのです。
4.アクティビスト・ファンドの手法
アクティビスト・ファンドの手法としては、
⑴ 経営権の獲得を目指す場合
「はじめに」で述べた東洋建設の事例は、TOBを成立させるため、会社に対して経
営陣を交代・送り込み、経営権の獲得を目指した場合です。
株主総会での株主提案により経営陣の交代が認められることは、非常に稀なケー
スです。
通常は、経営者との面談や業務提携、経営権(株式)の買取を目指すことになり
ます。
⑵ 経営権の獲得を目指さない場合
経営権の獲得を目指さずに、経営課題や配当要求、自己株の取得などで株価を上
昇させる提案を出す場合もあります。
この場合、株主としての保有株式の価値向上を目指すことになりますが、株価が
上昇後に市場等で売り抜けてしまう場合もあり、企業価値の向上につながらない場
合もあります。
5.アクティビスト・ファンドと買収防衛策
ライブドアのニッポン放送株取得事件から村上ファンドの登場により、日本の上
場会社のなかでは、買収防衛策を採用する企業が多くなりました。
しかしながら、最近では、買収防衛策を採用する企業が減少してきました。
それは、アクティビスト・ファンドの提案にも合理的な提案が含まれることが浸
透してきたためです。
アクティビスト・ファンドの提案に反対ばかりせずに、耳を傾け、企業価値の向
上に向けた建設的な意見は取り入れる考えが高まってきました。
6.政府の方針
今年6月、経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」の案では、(https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230608002/20230608002-3.pdf)
経営陣が買収提案を受けた場合には、原則として速やかに取締役会で検討する。
検討しない場合でも速やかに情報を共有すること。
企業価値の向上をめざす真摯な提案については、現経営陣の企業価値向上策と定量
的な観点から十分な比較検討を行い、買収価格が妥当なものかどうかなど、
株主の利益という視点も含めて真摯に検討することなどとしています。
アクティビスト・ファンドの提案や買収によって企業価値が上がり、株主の利益に
つながる可能性があるという考え方が政府の行動指針にも表れています。
7.結論
アクティビスト・ファンドの提案が、不当な要求や理不尽な要求であれば、当然な
がら認めるべきではありません。
ただ、アクティビスト・ファンドの提案が、企業価値と株主の利益を向上させるた
めの建設的な取り組みであれば、経営陣が聞く耳をもつ。株主と経営陣の対話が、企
業価値の向上に役立つこともあります。
アクティビスト・ファンドの提案だからといって、何でも拒否するのではく、企業
価値の向上に向けた方向性をしっかり踏まえたうえで、経営陣と株主の適切かつ建設
的な意見交換を望みます。
参考: