セクハラに関する諸問題

1.セクハラについて

セクハラ(セクシャルハラスメント)とは、性的言動により、相手方やその他の者に対して精神的、肉体的不快感、苦痛をもたらす行為のことをいいます。

 

男女雇用機会均等法11条1項でも、事業主は、職場において行われる性的な言動で労働者の対応によりその労働条件につき不利益を受けること、またはその性的な言動により当該労働者の就業環境が害されないよう配慮が求められています。

 

例えば、職場内で相手に聞こえるような声で卑猥な発言や卑猥な行為をすることもセクハラに該当します。

対象となる労働者は、正社員だけでなく、パート・契約社員派遣社員を問いません。

 

2.セクハラの種類

雇用機会均等法11条の2に基づき制定されたセクハラ指針では、セクハラ行為を大きく2つに分類しています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000Koyoukintoujidoukateikyoku/0000133451.pdf

  •  対価型

 性的な言動に対する労働者の対応(性的な関係を要求するも拒否した場合)により、解雇や減給、降格などの不利益な処分を与えるもの

  •  環境型

 性的な行動により、職場環境が害されるもの

(上司が、労働者の胸や腰を触るもの、労働者が苦痛に感じるポスター等を掲載する)

 

3.セクハラの構成要素

 セクハラの構成要素としては、以下の4つの要素が挙げられています。

 

  • 性的な言動があること

  「女らしさ・男らしさ」をことさら強調した言動や性別役割を称して分担を押し付  

   けたりすることは問題です。

    ただ、一方で女性に適さない仕事や特に異性からみて、仕事をしてほしくない

   場合もあります。(女子トイレの男性の清掃など)

   個々の仕事の内容に照らして、言動の趣旨が「女らしさ」「性別役割」を強制す  

   る場合に、均等法11条の「性的言動」に該当するか判断することになります。

  • それが相手の意に反していること

   行為が意に反しているかどうかは、平均的な異性の常識で判断されます。

  • 職場の労働条件について不利益を受ける

  「職場」とは、「職場」だけでなく、懇親会や飲み会の席も対象になります。

 

   「労働条件について不利益を受ける」とは、就業環境を悪化させることや退職な

   ど就業に悪影響を及ぼすことです。

     例えば、セクハラを受けた女性の対応により、職場上の地位や給与が下げら

    れることをいいます。

    なお、セクハラ行為と労働条件の不利益との因果関係が必要であるため、立証

   側にはかなり厳しい条件です。

  • 就労環境が悪化する場合

   就労環境が悪化する場合とは、厚生労働省の方針によれば、性的な言動により就  

   業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じ見過ごせな

   い程度の支障が生じることをいいます。

 

4.セクハラに関する判例

  セクハラに関する具体的な要素を規定した判例がありましたので、判断要素の参考

 になると思います。

  「職場において、男性の上司が部下の上司に対し、その地位を利用して、女性の意  

  に反する性的言動に出た場合、これが全て違法と評価されるものではなく、その行 

  為の様態や男性の職務上の地位、年齢、婚姻歴の有無、両社のこれまでの関係、被

  害女性の対応を総合的に見て、それが社会的見地から不相当とされる程度のもので

  ある場合、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法

  となる」(金沢セクハラ事件:名古屋高等裁判所金沢支部平成8年10月30日)

 

  セクハラ訴訟では、セクハラの具体的内容や言動が訴訟資料に記載されています。 

 これを第三者やマスコミに閲覧されて、不特定多数に事実が知られる、誹謗中傷を受

 けるおそれがあります。

  →セクハラ被害の二次的な防止として、

  訴訟資料に関する住所・氏名の不記載、閲覧制限、ビデオリンクによる証人尋問等

 で被害者の人権を守ることが求められます。。

 

5.男女雇用機会均等法の改正

 ⑴ 男女雇用機会均等法は、2020年に大幅に改正され、新たに男女雇用機会均等

  法11条の2第2項が新設されました。

  男女雇用機会均等法11条の2第2項では、事業主と労働者双方に対して、セクハ 

 ラに対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、企 

 業では、労働者が他の労働者に対して注意を払うよう「研修の実施その他の必要な配

 慮」をすべきことが努力義務として規定されました。

⑵ 指針では、事業主は以下の4つの措置をとるべきことが明記されています。

 1 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  事業主は、職場におけるセクハラの防止のために、事業主の方針等の明確化及びそ

  の周知・啓発に関し、以下の措置を講じる必要があります。

  • セクハラの内容およびセクハラがあってはならない旨の方針     を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

 →就業規則に規定するだけでなく、社内メールなど労働者全員にセクハラがあっては

  ならないことを周知する必要があります。

  • セクハラの行為者について厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則などに規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

  まずは、就業規則に、セクハラの防止及び厳正に対処することを明記する必要があ

  ります。

   就業規則にない場合には、懲戒規定にセクハラの行為者には厳正な対処を行う規

  定を設けることが求められます。

2 相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

  事業主は、労働者からのセクハラなどに関する相談に対して適切かつ柔軟に対応す 

 る体制を整備するため、次の措置を講じなければならないものとされています。

  •  相談窓口を設置し、窓口担当者が適切に対応すること

  →相談窓口専用のダイヤルや担当部署の開設が必要です。

  当然ながら、内部には情報を漏洩しないよう相談内容やプライバシーを厳重に管理 

 することが求められます。

   決して、他の部署や関係者に他言しないよう、秘密厳守が求められます。

   その一方で、人事関係者と連携して、通報者の保護や慎重な対応を行う必要があ

 ります。

  •  相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること

  →双方の事実確認を行い、第三者機関の意見も聞いたうえで、判断を行う必要があ  

  ります。

  • 事実確認ができた場合、適正な措置を行うこと
  • 配置転換
  • 行為者の謝罪
  • 労働条件上の不利益の回復
  • メンタルヘルス不調への相談の対応

 などの早期の対応を講ずることが必要です。

 

  •  再発防止に向けた措置を講じること

  再びセクハラに関する事件が生じないよう、ハラスメント行為者への厳正な処分と  

 処分の内容を社内に周知する必要があります。

 →その一方で、被害者のプライバシーに配慮し、事実関係は極力伏せておくことが求

  められます。

  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること

 →必要な措置とは、セクハラ防止のマニュアル作成、処分の調査報告書の作成、研修

  や勉強会を開催することを示します。

   また、窓口担当者には、高度な知識や対応の強化が求められる以上、外部の研修 

  会や勉強会に参加することも求められます。

  • 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

  →就業規則に、セクハラに関し相談をしたことをもって、解雇等不利益な扱いを行わ 

  ないことを規定し、労働者に周知・啓発することも求められます。

  快適な職場環境を維持することは、企業にとって、もはや当たり前です。

 

  今後はいかにセクハラを防止していくか、セクハラに遭った社員をフォローしていくか、セクハラ防止の予防策に会社の力量が試される時代になっています。

 

   セクハラでお困りの方は、是非当事務所にご相談ください。

   労働者・経営者に関わりなく、ご相談内容をお伺いします。