遺産分割と葬儀費用

1.はじめに

    遺産相続のご相談のなかで、葬儀費用を被相続人の財産から支払ってほしいという  

 ご相談多く寄せられています。

  葬儀費用の平均は、約200万円と言われています。

葬儀費用の平均相場はどれくらい?知っておきたいポイントあわせて解説|りそなグループ (resonabank.co.jp)

 

  最近では、

  葬儀に参列する方を家族や親しい友人に限定した「家族葬

  お通夜と告別式を1日に簡素化する「一日葬」

  火葬場の個室を借りて、簡単な式辞を送って、その後火葬を行う「直葬

  など簡素化したお葬式もあり、葬儀も多様化しています。

  それでも、葬儀費用として100万円近くの費用が生じてしまいます。

 

  この葬儀費用を、被相続人の相続財産から差し引くことはできるのでしょうか?

 

2.遺産分割協議

  相続が発生した際に、共同相続人全員で遺産の分割について協議し、合意すること 

 です。

  文字通り、被相続人の遺産をどのように分けるかという話し合いをします。

  では、被相続人の遺産に、葬儀費用は含まれるのでしょうか?

  答えは、含まれません。

  葬儀をするか否かは、残された相続人等が判断するため、被相続人の債務ではない

 からです。

 

3.葬儀費用とは

  葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用と、埋葬等の行為に要する費用(死  

 体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要

 する費用等)をいいます。

  葬儀費用を誰がどのように負担するかについては、民法その他の法律において特に

 定められていません。

  ① 共同相続人の負担となるとする説

  ② 実質的喪主が負担するという説

  ③ 相続財産から出すという説

  ④ 慣習・条理により決まる

 という説など諸説ありますが、いずれとも通説には至っていません。

 

4.葬儀費用に関する判例

  判例(平成24年3月29日判決 名古屋高等裁判所 平成23年(ネ)第968号

 貸金返還等請求控訴事件 (原審・名古屋地方裁判所平成22年(ワ)第8229号)

 において

082234_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 「葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為 に要する費用(死体 の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬 に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが,亡くなった者が予め 自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の 相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては, 追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責 任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬 等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するもの と解するのが相当である。 なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなど しておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担に ついての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行う にしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについ ては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するもので あるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方, 遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰 すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷 判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処分に要する 費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」

 

 この判例では、葬儀費用は、同儀式を主宰する者=喪主が支払うものとしています。

 では、喪主ってどう決めるか?

 =決まりはありません。

 喪主は、被相続人と最も親しい人物・関係が深い人物がふさわしいと思います。

 

5.葬儀費用の問題と、遺産分割のお話は別件

  結論からいえば、葬儀費用は、喪主の(好意による)負担であって、相続人・遺 

 産分割には関係のないお話ともいえます。

  葬儀は、喪主が葬儀の形・方法、費用を自ら主宰する究極のボランティアといえる

 でしょう。

  したがって、葬儀費用と遺産分割は、まったく異なる次元の別のお話と言っても過 

 言ではありません。

 

6.相続人全員の承諾があればOK

  ただし、遺産分割協議は、被相続人の財産をどのように配分するか話し合いをする

 ものですから、相続人全員が葬儀費用について決める(承諾する)ならば、遺産分割

 協議のなかで、決めることは構いません。

  もっとも、葬儀費用を巡っては、感情的な対立がある相続人間においては、紛糾の

 種になる可能性があり、慎重に対応されることをおススメします。

 

7.最後に

  解決方法は、「死後事務委任契約」もしくは「遺言」で予め葬儀の方法や費用を決

 めておくことです。

  最近では、生前に葬儀に関する契約を締結し、葬儀内容を決めるとともに、互助会

 などに葬儀費用に充てるためのお金を積み立てておくこと(このような契約を「死後

 事務委任契約」といいます。)もあります。

 

  亡くなった人がこのような契約を締結していた場合、自己の財産(相続財産)の中

 から葬儀費用を支払うと定めていることが多いのですが、その場合には、一旦喪主が

 立て替えて支払ったとしても、最終的には、相続財産の中から葬儀費用が支払われる

 こととなり、相続人の誰かが自己の固有の財産で負担するということはありません。

 

  遺言(公証役場で作成する「公正証書遺言」もしくは法務局の「遺言書管理制度」

 をおススメします。)で、葬儀の費用、喪主、葬儀の具体的な方法を決めておき、被

 相続人の費用で葬儀を行うと明記しておけば、紛争にはならないでしょう。

 

 

  相続人が多数いる場合、葬儀費用が紛争の種となり、「相続」が「争続」となりか

 ねません。

 

  被相続人が、相続人に迷惑をかけないためにも、葬儀費用を自分で決めることが、

 必要です。