マタハラに関する判例報告(JBL事件)
マタハラに関しては、たくさんの反響がありました。
そこで、マタハラに関する判例をご紹介します。
1.当事者
会社は、語学スクールを運営する株式会社です。
2008年7月、女性は正社員として入社。英語講師としてクラスを担当していました。
クラスは、社会人を対象としたクラスでしたので、平日の夜、週末の朝・昼・夜の各時間帯に開講しており、女性の就業形態は、平日の夜及び週末が中心でした。
2.女性の出産及び今回の経緯
2013年3月長女を出産後、産休と育休を取得しました。しかし、1年半の育休終了後も保育園が決まらず、週5日勤務をすることができませんでした。
そこで、契約期間を1年とする週3日勤務の契約社員として会社と再契約を交わすこととなりました。
ところが、この契約から約1週間後、保育園から空きが出るとの電話連絡があったとして、女性は翌月から週5勤務の正社員として働きたいと申し出ました。
女性は、「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」などと記載された書面を受け取っていたため、希望した時期に正社員に戻れると思っていました。
しかし、会社は契約社員契約を締結したばかりであることを指摘し、女性の主張を認めませんでした。
その後も女性はメールで正社員への契約の変更を申し出ましたが、会社からは「正社員であれば他の正社員と同じ前提で働けることが条件」などと告げられたため、女性はその場で労働局に相談に行くと告げ、その後、労働紛争の解決援助を東京労働局に申し出た。
女性は会社の他の女性従業員に、「(会社から)正社員に復帰させてもらえない」「いじめられている」「妊娠を考えているなら気をつけた方がいい」などと発言し、女性が加入した労働組合は会社に対して団体交渉を申し入れた。
こうした経過を受け、会社は女性に対し、退職勧奨をしていないにもかかわらず、退職勧奨をしたと他言していることを禁止するよう求める合計16通に及ぶ警告書等を交付。また、女性が録音機器を執務室に持ち込み、秘密に録音をすることは就業規則違反として録音を禁止する注意指導書なども女性に交付した。しかし女性は、「自己の行動に問題があるとは思わない」と述べ、いずれの書面にも同意しませんでした。
3.今回の論点
①.正社員である原告女性と育休明けに契約社員としての雇用契約を交わしたことが
均等法や育介法で禁止されている「不利益な取扱い」(マタハラ)にあたらない
か。
➁.育休明けに結ばれた契約社員としての雇用契約が、正社員に復帰させることを内
容とする合意を含むものだったのか
4.結論
①.「不利益な取扱い」(マタハラ)にあたらない。
➁.育休明けに結ばれた契約社員としての雇用契約は正社員に復帰させることを内容
とする合意を含むものではなかったと解される。
5.根拠
①.女性側には、
私的メールや情報漏洩義務違反、就業規則違反等多数の違法行為が認められたこと
契約内容の変更時には、真に自由な意思に基づいてしたものであること
復職後も子を預ける保育園を確保する目途が立ったわけではなく,時間短縮措置を講じても週5日勤務が困難な状況に変わりがなかった
ことから、不利益な取り扱いとはいえないと判断した。
➁.「契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」との
記載 は,契約社員については,将来,正社員として稼働する環境が整い,本人が希
望をした場合において,本人と一審被告との合意によって正社員契約を締結するとい
う趣旨であり・・・あくまで将来における想定にすぎず,本件契約社員契約の締結時
において,契約社員が正社員に戻ることを希望した場合には,速やかに正社員に復帰
させる合意があったとはいえない
6.今回の特殊性
今回の事例の場合、女性側は、会社の交渉が決裂した際に、無断録音や事実でない事柄、録音データをマスコミに公表したことで、会社側の名誉が傷つけられる事態になりました。
それゆえ、女性側にとっては、会社に名誉棄損という違法行為を生じさせてしまったことで自ら不利な状況を作ってしまったところがあります。
7.この事例から学ぶべきこと
① 安易にマスコミに事実を公表しない
➁ 保育園が決まらないまま育児休業が終了してしまった場合は、育児と両立できる形で復職してもらうことができないか会社とよく話し合うことが必要です。
復職後の業務が、産後の身体に影響があるものか、時間短縮措置を講じても週5日
勤務が困難か、代替業務をしばらく行ってから復職できるかなど様々な意見交換を行い、労使が協力して、その人に合った復職方法を検討することが求められています。
企業側も、復職に向けて、仕事と育児を両立させるため柔軟な対応をとることが求められており、
労働者側も、復職後の業務が産後の身体の影響がある場合には、無理をせずに、代替業務・時短業務から少しずつ元の仕事に復帰できるように話し合うことが求められています。
今回の事例のように、産後の契約変更を行う際には、保育園の入園など将来起こりえる事態を事前に協議しておくべきであったと思われます。