離婚と暗号資産

1.はじめに

暗号資産を保有している方の離婚の相談を数件受けました。

そこで、離婚の際に暗号資産が問題となったケースをいくつかご紹介します。

 

2.離婚原因

例えば、夫が暗号資産やFX取引にハマってしまい、多額の借金を抱えている。

このままでは生活できないので、夫と離婚したいといった妻からの相談があったとします。

 

この場合、離婚は認められるのでしょうか

離婚原因は、民法770条1項に記載しています。

具体的には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかになります。

「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは、総合的な事情を考慮しても、夫婦関係の継続または回復が期待することができず、夫婦関係が破綻している場合をいいます。

暗号資産の取引が原因とは言え、多額の借金が原因で生活費を入れてくれない、借金を押し付けされ、支払いを求められているなど夫婦関係の継続が難しい状況であれば、夫婦関係が破綻しているといえ、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性があり、離婚が認められる可能性があります。

 

3.暗号資産と財産分与

 実際に離婚の手続きを行う場合には、離婚の成立以外にも、財産分与、養育費、慰謝料等の問題も議論することになります。

 では、夫が暗号資産を保有している場合、財産分与の対象となるのでしょうか。

 暗号資産も財産的価値ですから、財産分与の対象になります。

 財産分与の対象時期は、原則として別居時ですから、婚姻時から別居時までに購入し た暗号資産は実質的に共有財産として考えられるため、原則としては、財産分与に含まれます。

 一方で、暗号資産が特有財産に該当した場合には、財産分与には含まれません。

 特有財産とは、夫婦一方が、夫婦の協力関係によらずに単独で得た財産をいいます。

 例えば、婚姻前に有していた資産、相続や贈与で得た資産などをいいます。

 暗号資産は、多額かつ大量の取引を行っているケースが多く、その金銭の出所がつかみにくいという傾向にあります。

  れでも、婚姻後に多額かつ大量の取引を行えば、その資金は、婚姻後に得た資金を利用していたのではないかと考えることが自然です。

 共有財産を原資とした暗号資産の取引の利益については、基本的には共有財産と考えられます。

 

4.慰謝料や養育費を暗号資産で支払うことはできるか

 現金よりも暗号資産のほうが多く保有している夫から、離婚の際の慰謝料や養育費を暗号資産で支払うことはできるかというご相談を受けました。

 

 結論から言えば、慰謝料及び養育費を暗号資産で支払うことは難しいと思われます。

 

 ①慰謝料について

 慰謝料の根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求権です(民法709条)。

 不法行為に基づく損害賠償の方法は、民法は金銭賠償を基本としており(民法722条1項、417条)、原則としては金銭での支払いが求められます。

ただし、当事者が別段の合意をすれば、金銭以外の支払いつまり暗号資産での支払いも可能です。

 では、相手方が同意するかというと、現実的にはかなり難しいように思えます。

 相手方つまり妻側としては、通常はすぐに換価できる金銭を支払い方法として求めます。暗号資産での支払いを望む方は1人もいません。

 相手方にメリットがあれば、暗号資産による支払いも可能のように思えますが、暗号資産の口座開設の必要性や換金の手間を要すること(暗号資産の取引に精通していないと、正直暗号資産を受け取っても困ってしまいます。)を考えると、相手方が暗号資産の支払いに応じない可能性が非常に高いといえ、結局金銭での支払いとなってしまうと思われます。

② 養育費について

 養育費の性質は、子が日々の生活をするために必要な金銭ですから、当然ながら金銭を想定しています。当事者が別段の合意をすれば、金銭以外の支払いつまり暗号資産での支払いも不可能とはいえませんが、暗号資産の場合、価値が急落してしまうと、定められた養育費では生活できないリスクが生じ、養育費としての本来の性質を維持することができなくなってしまいます。

 そのため、裁判所としても、養育費の支払いに関しては、暗号資産による支払いを認めず、金銭による支払いを求めると思われます。

 

5.最後に

 暗号資産という新しい決済手段に対し、離婚に伴う法制度や手続きが追い付いていないという現実もあります。

 今後、暗号資産がますます広がっていく中で、暗号資産も支払い方法として認めるよう法制度改革や手続自体を変えていくことが必要になると思われます。