私立高校が、SNSの停止に従わなかった生徒に対して、停学処分ができるか?

 今や、小学生でも携帯電話・スマホを持っており、誰でもブログやSNSにより情報発信できる時代となりました。

 

 しかしながら、教育機関は、携帯電話の急速な普及に対応しきれていないのが実情です。

 当事務所にご相談のあった事案を、本人らのご承諾の下で、ご紹介します。

 

1.事案の概要

 お子さん(以下、「Aさん」とします。)は16歳の高校生。

 Aさんが通っている学校は、某宗教の教えに厳格に従った女子高校です。

 その高校は、宗教の教えにしたがった厳格さ、荘厳なイメージ・雰囲気で人気を集めており、年頃の高校生であれば、名前くらいであれば誰でも知っている学校です。

 Aさんの趣味は、ブログやSNSでの発信。

 Aさんは、毎日ブログを更新して、海外の高校生とも交流のあるブロガーで、将来はYouTubeなどの媒体を通じて、日本の歴史や文化を世界に発信する仕事に尽きたいと、英語や日本の歴史を一生懸命学んでいます。

 

 ある日、Aさんは、学校の様子や友人の勉強している姿を学校や友人に無断で撮影して、「自分も大学に向けて頑張らなきゃ」とコメントしてSNSにアップしました。

 

 それを見た友人が学校に報告。学校側は、AさんにSNSのアップを含めた今後1週間のSNSの停止を求めました。

 しかしながら、Aさんは、学校の停止要請に従わず、SNSを続けました。(SNSには、学校の様子等は含まれていません。)

 

 学校は、Aさんに3度警告しましたが、同じような状況に至り、結局、Aさんを停学処分にしました。

 

 この学校の処分は、憲法上問題ではないか?

 処分として、重すぎるのではないかと相談がありました。

 

2.SNSを発信する自由

 憲法21条1項では、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定しています。

 SNSを発信する自由も、その他一切の表現の自由として、憲法21条1項で認められる権利です。

 なぜなら、憲法21条の表現の自由は、

 ⑴「自己実現」の価値

 (個人が表現活動を通じて自らの人格を発展させるという個人的な価値)

 ⑵「自己統治」の価値

 (表現活動によって国民が政治的意志決定に関与するという民主政に資する社会的な価値)

 を定めているものと解されており、SNSによる情報発信においては、他人とコミュニケーションすることで自己実現及び自己統治の価値を果たすことができるからです。

 

 したがって、SNSを発信する自由は、憲法21条1項により認められる自由であるから、本来的には誰も規制することはできないはずです。

 

3.表現の自由への制約

 しかしながら、表現の自由も一切無制限というわけではありません。

 多くの判例の積み上げにより、一定の「公共の福祉」による制約を受けます。

 例えば,人の名誉を損なう表現は,刑法の名誉毀損罪で処罰されるという制約を受けます。

 しかしながら、表現の自由憲法上の重要性に鑑み,表現の自由の制約については特に厳しい基準で審査すべきとされています。

 例として挙げた名誉毀損罪についても,判例上,刑法の規定は厳格に解釈されています。

 

4.私立高校学校という特殊性

 学校は、教育機関であり、私立高校であったとしても、教育機関として準公共的な施設としての機能を有しています。

 生徒は、16~18歳の学生であり、物事の分別が必ずしも正確に捉えることができない年代です。

 SNSによる誤った情報の発信による危険についても、「情報」の授業で初めて聞いた生徒もいます。

 

 私立高校は、独自の校則等により、各生徒との関係で規律を定めることができます。

 当然ながら、生徒が規律に反した場合には、停学処分等の処分を受けるおそれがあります。

 生徒が規律に反した場合、その処分を判断するのは、私立学校ですが、教育目的の観点からその処分の相当性を判断する必要があります。

 

 5.当該女子高校の特徴・ブランドについて

 今回の高校は、某宗教の教えに厳格に従った女子高校であり、「厳格さ」のあるイメージが高校のトレードマークやブランドになっていることも否めません。

 今回の処分の判断においては、当該女子高校のイメージやブランドも考慮する必要があります。

 

 6.結論

 ご相談者との話し合いの結果、学校の処分に対して、明確に違法であるとはいえないのではないかとの結論に至りました。

  やはり、SNSによる波及効果により、視聴者に誤ったイメージを与えてしまい、「厳格さ」を傷つけてしまうこと、無断で友人の姿を映してしまうことは、友人のプライバシーや肖像権を侵害する行為です。

 被写体の方の同意なくしてSNSによって晒されることで多大な影響が生じることは否めません。

 また、SNSは、いったん情報発信してしまうと、あっという間に不特定多数に情報が発信し、取り返すことができません。

 したがって、学校の処分も仕方がないようにも思えます。

 

 確かに、停学処分は重い処分のように思えます。

 

 ただ、3度の警告があったのにも関わらず、Aさんが一切無視するような言動を取ってしまうと、学校側としてはこれ以上施しようがありません。

 また、未成年でSNSによる危険を十分認識していない生徒が多い以上、AさんのSNSを許容してしまうと、他の生徒もマネをして、SNSによる誤った情報を拡散させてしまうことで、学校の中傷や学校に通う生徒への誹謗中傷を与えてしまうおそれもあります。

 このように考えると、Aさんが停学処分を受けたことは、仕方がないように思えましたが、相談後、「ちょっと厳しかったかな~」と思うところがあります。

 

 皆さんは、どのように思いますか?