市川市江戸川放水路におけるかき殻等の投棄の禁止に関する条例について

 

千葉県市川市では、令和5年4月1日から江戸川放水路におけるかき殻等の投棄の禁止に関する条例が制定され、令和5年10月1日には条例に違反した場合には、5万円の過料が施行されることになりました。

 

では、どうしてこのような条例が制定されることになったのでしょう。

 

1.条例の経緯

 市川市を中央に横断する江戸川の南部には、江戸川河川敷があります。

 この江戸川河川敷には、比較的大きな干潟があり、自然発生したカキも生息しています。

 このカキが一部の中国人により採捕され、河川敷に大量にカキ殻が放置されていることが明らかになりました。

 河川敷に約1㎞にわたって、推定100トン?に及ぶ大量のカキ殻が埋められているとの報道もあります。

 河川敷には、子供が靴を脱いで水遊びすることもあり、子供がカキ殻のためにケガをして救急車に運ばれたケースが後を絶たなかったことから、市川市として対応を迫られたためです。

 

2.条例の目的

 今回の条例は、この条例は、江戸川放水路においてかき殻等を捨てることを禁止することにより、江戸川放水路を安全かつ清潔に利用することができる環境(以
下「利用環境」という。)の保全を図ることを目的としています。

 つまり、江戸川放水路で、カキ殻を捨てることを禁止することを目的とした条例です。

 では、そもそもカキを採捕すること自体を禁止することはできないのでしょうか。

 

3.カキの採捕の自由

 現状では、残念ながらカキの採捕を制限する法律や条例はありません。

 カキは、自由に採捕してよいということになります。

 

 この問題を解消する方法として、地元漁協に江戸川放水路付近の漁業権を認可することが考えられます。

 ただし、漁業権を設定する権限があるのは、千葉県です。

  今回の問題について対策がうまく進まなかった原因は、江戸川放水ロを管理する管轄が国交省江戸川河川事務所つまり国の管轄であって、情報共有がうまく進まなかったことにあります。

 千葉県においても同様の懸念が生じうるといえるでしょう。

 

 また、実際にカキに漁業権を認可しても、カキ自体は大量に生息し、漁協では誰も採捕しないですから、漁業権本来の趣旨である「水産資源の確保」と「漁師の生活保障」という趣旨から外れてしまうことになります。

 仮に、漁業権が認可されても、放水路は、その性質上、洪水時にはゲートの出し入れにより、河川の氾濫を防止する役割があります。

 大量に河川を放水することで、水産資源(カキ)の採捕に悪影響を生じ、その都度、漁協に補償金を支払う必要も生じます。  

 

4.江戸川河川敷付近の立ち入り禁止について

 カキの採捕が阻止できなければ、立ち入り禁止にすればよいという考え方もあります。

 しかしながら、河川敷は、国民の財産(公物)として国民が自由に利用できることが原則です。

https://ocw.nagoya-u.jp/files/410/lec_no11.pdf

 

(中国人の)カキの採捕を規制するために、国民全員が規制を受けるとは、本末転倒のように思えます。

 また、現状においてカキの採捕は自由ですから、カキの採捕を理由として、立ち入り禁止をすることもできません。

 

5.河川敷付近の監視の強化

 現状で、できることといえば、警備員による監視の強化でしょうか。

 ただし、実際に現地に行ってみてわかりますが、江戸川の河川敷は広範囲に及び、レジャーや水遊びに来る方も多いです。

 その中からカキの採捕する人間を見つけ出し、摘発することは限りなく困難といえるでしょう。

  現実的な対策としては、監視カメラによる監視を続けることに限られます。

 (監視カメラでも、人物を特定することは困難で、現行犯以外には摘発は難しいでしょう。)

 

 今回の問題点は、モラルの問題に尽きるかと思われます。

 河川敷に生息しているカキを採捕するだけではなく、カキ殻をその場で投棄することは、(日本人のモラルでは)想定していなかったものと思われます。

 

 海外の方とは、文化も異なり、常識も異なります。個々人のモラルに訴えることは限界なのかもしれません。

 

 

 個々人のモラルに任せることは限界となると、過料等の罰則で制限するしかないのでしょうか?

 ただ、江戸川の河川敷でカキを採捕する中国人から見たら、

 「カキを取るのは自由なのに、カキを捨てたら罰金なのはどうしてか?」と素朴な疑問が生じるでしょう。

 

 現状の対策としては、監視員がカキを採捕する人を見つけては、随時説明するしかないようにも思えます。

 

 

 なかなか難しい問題ですね・・・