「漁業権」についてのお話

6月になり、気温が上がると、東京湾でも様々な魚を釣ることができます。

 

ということで、今回は、釣りを行う時に生じる、「漁業権」と「入漁料」についてお話します。

1 漁業権とは?

 漁業権とは、都道府県知事の免許を受けて、一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利のことをいいます。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/gyogyouken_jouhou3.html

 

漁業権はさらに共同漁業権(あわび、さざえ、うに漁業等)(存続期間10年)、定置漁業権(定置網業)、区画漁業権(養殖業)(存続期間各5年)に分けられ、それぞれの漁場により権利の内容が若干異なります。

 漁業権の由来については、江戸時代までさかのぼります。

 江戸時代において、各地域の網元や船元の力が強くなるなかで、江戸時代の各地域の漁業は、各藩が制定した「山野海川入会」にみられる諸原則によって律されていました。

 その際には、漁業集落の前浜漁場についてその縄張りを公認するとともに、「磯漁」
と「沖漁」を区別し、「磯漁」については浦税その他集落が負担する貢粗、「沖漁」については漁獲物を基準にした運上金や冥加金、これらを領主に納入することによって漁を行う権利が保障されていたとされています。

つまり、各藩の藩主公認で、税金を取る代わりに、縄張りを保障する慣例があり、これが現在の「漁業権」に由来するものとされています。

https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/r0503in1.pdf

2 漁業権により禁止されること

 

 漁業権の規制内容は、魚介類の水類や漁法によって細かく分かれていますが、一般の釣り人に一番関係するのは共同漁業権と呼ばれる権利です。

 共同漁業権とは、漁業権が設定されている沿岸域において、あわび・さざえ等の貝類、わかめ・こんぶ等の海藻類、いせえびやたこ等の定着性の魚貝類の採取等を漁業権者(地元漁協)の排他的権利(物権的権利)とするもので、漁業権者の同意なく採取等をすると、罰金刑に処せられます。

 漁業法の目的は、水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もつて漁業生産力を発展させること(漁業法1条)にあります。

 そして、漁業権は、水産資源の持続的な利用を確保と漁業を生業とする人の生活や権利を保護する制度です。

 

 したがって、自分で食べるつもりで採捕しても、漁業権侵害となります。

 

3 釣りと漁業権について

 自分で食べるつもりで採捕しても、漁業権侵害となるのであれば、海に出て行って普通に釣りを楽しむことも漁業権侵害になるでしょうか?

 

 共同漁業権は、うにやあわびなど地先水面の定着性魚貝や藻類を保護しています。

 つまり、その海域に定着している「うに」や「あわび」「なまこ」、「わかめ」、「イセエビ」、「たこ」などを保護しているわけで、自由に動き回ることができる「魚」はその保護の対象にはなっていません。

 

 魚釣りは、遊漁として、規制の範囲には入っておらず、原則としては適法です。

 ただし、遊漁であってもトローリング(引き網釣り)は漁業権が必要ですし、

遊漁であったとしも、誤って「イセエビ」などを採ってしまった場合には、リリースしないと、漁業権侵害にあたり、罰金刑になってしまいます。

 

 4.潮干狩りと漁業権について

 潮干狩りの対象である「あさり」、「はまぐり」も共同漁業権の保護対象です。

 つまり、漁協などが運営している潮干狩り会場以外で「あさり」や「はまぐり」を採取すると、漁業権の侵害となり、罰金刑の対象となります。

 海は、誰の所有者ではありません。

 海の中にいる海洋生物も誰の所有者でもありません。

 しかしながら、乱獲により特定の海洋生物が減少していることも事実です。

 

 水産資源の持続的な利用を確保することと漁業との両立を図るために、

 漁業権という形で事実上、漁協に漁業の管理を委ねることにしたのです。

 

 5.入漁料について

 河川や湖沼で釣りを楽しむ際に、入漁料を支払う必要があることがあります。

 

 入漁料とはどのような性質なのでしょうか?

 

 入漁料も漁協が関係しています。

 

 河川での魚等の採捕では、生産性が低いため、すぐに資源が枯渇してしまいます。

 

 そのため、漁業権を付与された漁協には、魚等を放流する義務があります。

 

 一方で、河川では釣り人での釣りが圧倒的に多く、漁協が魚などを放流する際に生じる経費を入漁料(遊漁料、釣り券)といった形で負担することを求めています。

 

 ここで注意が必要なのは、

 魚を採捕する権利は、本来漁協のみに与えられているところです。

 漁協は放流や河川の整備等経費が生じているから、利用者に入漁料として協力を求めていることです。

  それゆえ、魚を持ち帰ってもリリースしても、同じく入漁料が生じるのです。

 

 魚を採捕する権利は、本来漁協のみに与えられている点に関しては、時代遅れという指摘もあり、また漁協の既得特権につながる批判は否めません。

 

 ただ、その一方で、魚の資源回復や枯渇しないよう、河川を整備し、放流等を続ける必要があり、その役割を担っているのが各地域の漁協であることも確かです。

 

 私達としては、魚の資源が枯渇しないよう、欲張らずに、その場に即した適切な方法で、釣りを楽しむことが求められているのですね。