タレントは「労働者」か?
前回のブログで、タレント契約についてご説明しました。
タレント様から多く受けているご相談内容として、次に多いのが、「給料の天引き」問題と「事故が生じたとき」の労災の認定の問題です。
これらの問題は、タレントが「労働者」(労働基準法9条)であるかによって変わります。
労働基準法では、労働者に全額支払う(労働基準法24条)ことが明記されています。
給与の天引きは、労働者の同意がなければ、できません。
また、労災は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付(労働者災害補償保険法7条1号)を示しますので、労災を受ける場合には、「労働者」であることが必要です。
「労働者」(労働基準法9条)とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者といいます。
タレントもプロダクションから「使用」され、「賃金」を支払われるなら、労働者に該当します。
タレントが労働者に該当するには、「労働契約」ないし「雇用契約」を締結する必要があります。
ただし、これとよく似た制度で「業務委託契約」があります。
業務委託契約とは、互いに対等の関係で委託者が受託者に業務を委託し、委託者が「委託料」を支払う関係のことをいいます。
タレント契約が労働者に該当するかどうかは、「労働契約」であるか「業務委託契約」であるかが正しく分岐点になるということです。
では、その契約が「労働契約」か「業務委託契約」であるかは、どのような判断基準で決まるのでしょうか?
法律上では、「労働契約」と「業務委託契約」の明確な区別は規定されていません。
ただ、多くの判例の集積によって考慮基準が定められています。
① 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
➁ 業務遂行上の指揮監督の有無
③ 勤務時間・勤務地の拘束性の有無
④ 代替性の有無
⑤ 専属性・事業性の有無
等により判断されることがあります。
① 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
簡単にいえば、仕事を取ってくるのは、本人かプロダクションか仕事を断れるかどうかです。
プロダクションから依頼を受けた仕事を断れるかどうか
仕事の依頼がタレント自身で得ることが可能か、プロダクション経由でないと難しいか
上記の事実等を確認する必要があります。
➁ 業務遂行上の指揮監督の有無
プロダクションが、タレントの具体的な仕事内容に口をはさんでくることがあるかどうかです。
③ 勤務時間・勤務地の拘束性の有無
売れないタレントのなかには、タレント業以外に、プロダクションの秘書業務や雑用等の仕事を任されることがあります。
そのような場合には、プロダクションの事務所で秘書業務に従事することが拘束されるため、拘束性が認められる場合があります。
④ 代替性の有無
そのタレントの代わりに別の人が行ってもできるか?ということです。
売れない芸人であれば、誰でも代わりはいる??かもしれません・・・
⑤ 専属性・事業性の有無
タレントとの契約が専属契約であるか、雇用保険・厚生年金・健康保険の加入があるか、源泉徴収が行われていると労働契約性認められやすくなる傾向があります。
また、道具やレッスン代の負担の有無、交通費や衣装等のいわゆる「経費」が、自己負担か会社負担かによっても、労働者性が判断されます。
他のタレントとの契約の同一性・類似性、具体的な仕事の特性も判断基準に入ります。
例えば、映画撮影を行う際の、映画撮影技師が労働者に該当するか争われた事件(東京高裁平成14年7月11日労判832号13頁)では、映画の撮影技師について、
撮影方法は、映画監督の指示下にあったこと、報酬は、映画製作プロダクションの報酬基準(日当と予定撮影日数等を基礎とした算定額)に合わせて支給されていたこと、仕事の諾否は制限があったこと、映画作成の予定通りに拘束され、時間的・場所的拘束性が高いことを理由として、映画の撮影技師は、「労働者」(労働基準法9条)に該当する判断がなされました。
上記判決のように、「労働契約」であるか「業務委託契約」であるかどうかは、業務の具体的な内容や仕事の実態に合わせて考慮要素を判断していくことになります。
タレントの皆様、「給与の天引き」や「労災」のご心配があるようであれば、是非とも弁護士に相談してみてください。
業務の実態から、違法な行為であると判断された場合、労働基準監督署の是正命令や訴訟により、違法なプロダクションの行為を告発することになります。
その際には、是非とも一緒に戦いましょう!!